楽しみという名の逃げ場
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1976年生まれ、群馬県在住。
ヒプノセラピーの先進国、アメリカ合衆国の中でも長い歴史を誇る、ヒプノセラピーのナンバーワン・プロ団体「NGH」。ナンバーツーの規模を誇る「ABH」の両団体より公式認定されたスクールにて、ベーシック・トレーニング、プロフェッショナル・トレーニング、トレーナー・トレーニングの全コースを修了。
ヒプノセラピスト(催眠療法士)となる。
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楽しみの役割は様々
あなたに活力を与えてくれる楽しみ事には、様々な役割があります。
あなたを勇気づけてくる楽しみ事。あなたに自信を感じさせてくれる楽しみ事。
そして中には、あなたが自分では見たくない内面から目を逸らすのを助けてくれる楽しみ事もあります。
エピソード
女性Aさんは、数年楽しんできた趣味が近頃楽しめなくなっていました。
それに伴って、日常生活でも倦怠感と虚しさを感じ、感情の起伏がなくなっていくようで、この重苦しさの原因を知りたいとのことでした。
セッションではAさんにウォーミングアップのイメージワークをしてもらった後、
イメージの中で、趣味が楽しめないと感じた最初の場面に移動してもらいました。
Aさんが移動した場面は、趣味のお教室で仲間と楽しく会話をしているところでした。
Aさんにその状況を詳しく説明してもらうと、Aさんは仲間と楽しく会話をしているが、
心の中では、この教室にいる自分が場違いに感じ、人と会話をしているが誰とも会話をしていない、
一人だけ取り残されたような違和感を感じていました。
Aさんに「趣味の作業をしているときは先程の違和感を感じますか?」と質問すると、
Aさんは「違和感はないですが、作業していても単なる作業で以前のようにワクワクしません。」と答えました。
そこでこの趣味を一番好きで楽しめた場面に移動してもらいました。
その場面では、Aさんは自分自身をイキイキしていて、バランスのとれた人間だと感じていました。
特に、趣味仲間に頼りにされ、みんなを取りまとめているとき、喜びを感じ、楽しいと強く感じていました。
その話ぶりから、趣味自体よりもAさんにとって交友関係の方が重要のように感じられました。
Aさんに「仲間に頼られず、みんなの中心にいないとしたら、どう感じますか?」と質問をすると、
Aさんは「・・・。無価値。意味のない人間。」と低い声で答えました。
Aさんに「現在感じている倦怠感や虚しさの中に、この無価値観、意味のない人間という要素も含まれていますか?」と質問すると、はいと答えました。
Aさんに現在の趣味の交友関係の状態を尋ねると、とても良好だったため、どうやら現在ではなく、過去に何かあるようです。
そこでAさんに「あなたが自分自身を無価値、意味のない人間だと一番強く感じた場面に移動してみましょう。」と言うと、
Aさんは「・・・。毎日、頻繁に感じています。ずっとです。」と答えました。
ここからAさんが感じる無価値観、意味のない人間というビリーフがいつから発生したのか、退行催眠で時間を遡っていきました。
退行催眠によって、わかってきたのは、自分は無価値、意味のない人間というビリーフは、
幼少期のご両親との関係性が発端になっていました。
この時期のAさんにとって、両親は自分を蔑ろにする憎むべき存在でしたが、
一緒に暮らしていく上で、Aさんの感情は関係悪化を招くため、ある時期を堺に、
Aさんは自分の感情よりも両親の好みに合わせて生きることを優先しました。
その選択についてAさんは「楽になりたかった」と言いました。
そしてこの頃にAさんはある混乱したビリーフを作りました。
そのビリーフとは「私は私自身に捨てられた無価値な人間」というものでした。
この頃からAさんにとって、自分を気にかけてくれること、特に他の人よりも特別な対応をされることがとても重要なことになりました。
そういう対応をされているとき、Aさんは「生きている感じがする」と言いました。
この生きている感じを強くAさんに与えてくれたのが趣味の交友関係でした。
この趣味を楽しんでいるとき、Aさんは自分で作り上げた無価値というビリーフが、
Aさんとは無関係の世界のことに感じていられました。
Aさんにとってこの趣味を楽しむことは、ビリーフを忘れさせてくれる逃げ場だったようです。
この逃げ場である趣味の交友関係は現在も良好で、Aさんに生きている感じを与え続けてくれる状況にも関わらず、生きている感じを得られなくなってしまい、Aさんは戸惑っていました。
Aさんに「生きている感じを得るために、別の方法を探す時期になったのかもしれません。
無価値というビリーフからあなたの意識を逸らしてくれる方法を探すか、
このビリーフを解除するか、または他に挑戦してみたい方法はありますか?」と質問すると、
Aさんはしばらく黙った後「・・・。私、無価値でしょうか?」と尋ねてきました。
Aさんに、Aさんが作り出したビリーフはAさん自身でしか変更できないと伝えると、
Aさんは「そんなに無価値じゃないと思うんです。」と答えました。
ここからはAさんのガイドを交えて、Aさんが無価値のビリーフを生み出す前のAさんの感覚に意識を移動させ、
その意識から、多感な幼少期に作り出したビリーフが当時の状況から的を得たものなのか、
それとも混乱した時期に生み出された歪なものなのか、Aさん自身に確認してもらいました。
その確認後、Aさんのガイドは「Aさんはこのビリーフで長年、自分をがんじがらめにしてきた。
今では日常の一部になってしまい常習性を持っている。
意識をしっかり持って、このビリーフを感じている時間を減らしていくように」とアドバイスしてきました。
どうやらAさんは、自分で作り出した無価値のビリーフから主権を取り戻す作業が始まるようです。
Aさんに「このビリーフがあなたにとって、取るに足りない小さな影響力しかないと自分で決められるとわかったら、あなたはまず何から自由になれそうですか?」と尋ねると、
Aさんは「人の気を引く癖から自由になれる。」と答えました。
余談
Aさんのガイドはエンプティチェアを使って、たくさんのアドバイスをしてきました。
Aさんのガイドは、Aさんのことをいつも気にしてくれた亡くなったおばあちゃんでした。
新しい世界
Aさんはガイドからの詳細なアドバイスについて、「いろいろ注意する(無意識にビリーフに取り込まれないようにする)ことが多いので気が重いです。」と苦笑いしました。
Aさんに「楽な道ではないようですが、やる価値はありそうですか?」と質問すると、
Aさんは「ずっと同じこと(ビリーフから逃げるための逃げ場探し)を繰り返すしかないとわかったので、やる価値はあると思います。」と答えました。
Aさんがこの趣味を楽しめなくなったのは、逃げ場となる楽しみはもう不要で、
新しいステップに踏み出す時期がきたというAさん自身からのメッセージだったのかもしれません。
そしてAさんが『やる価値はある』と感じた気持ちが、今後Aさんが挫けそうな時、支えてくれるかもしれません。